認知症を予防する腸内細菌のビタミンやGABAを生産する働きとは?
私たちの腸内に100種類、100兆個以上の腸内細菌が生息していると言われていますが、この腸内細菌の働きが認知症の予防に役立つとして、近年、注目を浴びるようになってきています。
腸内細菌の主な働きとしては、食べ物の消化と分解、代謝、ビタミン類やホルモンの合成、有害物質の解毒、酵素の分泌などがあります。
これらの働きはどれも何らかのかたちで認知症の発症を防ぐことに関わってくると思われますが、特に注目したいのはビタミン類を作り出す働きです。
腸内細菌はビタミン類のうちの特にビタミンB群(ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、葉酸など)を作り出すことが知られています。
ビタミンB群は、「セロトニン」や「ドーパミン」、「ノルアドレナリン」、「メラトニン」といったホルモン・脳内神経伝達物質を合成する際に必要になる栄養素です。
また「セロトニン」や「ドーパミン」の前駆物質は腸内で作られてから、脳に送られるとされているため、これらがきちんと生成されるようにするには、腸の健康を維持していくことも大切になってきます。
さらにビタミンB6や葉酸といったビタミンB群が不足してしまうと、血中の「ホモシステイン」の濃度が上昇してしまい、アルツハイマー型認知症の発症リスクが高まるとされています。
そのため、普段からビタミンB群が不足しないように、腸内細菌のバランスを整えることで腸内環境を改善していくことが重要なのです(ビタミンB群はサプリメントから補充するよりも、腸内細菌に作ってもらったほうが効率的だと言われています)。
腸内細菌の集まりの様子はお花畑になぞらえて「腸内フローラ」と呼ばれていますが、日頃からこの「腸内フローラ」のバランスを整えることが20代・30代・40代からの認知症の予防につながっていくと考えられます。
ちなみに腸内フローラを改善するには、ヒトの体に対して良い働きをする菌(主に乳酸菌)が含まれた食品(プロバイオティクス)を腸に送り込む方法と、善玉菌のエサになる食物繊維やオリゴ糖などが含まれた食品(プレバイオティクス)を腸に送り込む方法があります
腸内細菌はGABAにも関わっている
また、アミノ酸の一種である「GABA(ガンマーアミノ酪酸)」は脳細胞の代謝を促進する働きがあるため、認知症の予防・改善に効果的であると期待されています。
GABAには人間がリラックスしている状態に出るα波という脳波を増加させる作用があることが知られており、アドレナリンの分泌量を抑えたり、緊張や不安を抑制したりする効果もあると言われています、
さらに高血圧の際に血圧上昇の原因となるナトリウムを排出し、血圧を下げる作用があります。
それに加えて、動脈硬化を引き起こすコレステロールと、中性脂肪の増加を抑制するという研究報告もあるため、認知症だけではなく、動脈硬化や糖尿病などの生活習慣病の予防にも期待が高まっています。
ちなみにこのGABAが入ったチョコレートが宣伝されていることがありましたが、体外からのGABAは脳の関所である「血液脳関門」を通過できないため、食品から摂ったGABAを脳で作用させることは難しいと言われています。
実はこのGABAも、腸内の常在菌によって生産されていることが、協同乳業、理化学研究所、東海大学医学部、HMT社の共同研究によって判明したとされています。
実際、腸にはGABAの受容体が存在していると言われていますが、なぜ腸にGABAの受容体があるのかといえば、その理由は腸内細菌がGABAを生み出しているからだと推測できます。
そのため、腸内環境が悪化することで腸内細菌の元気が失われてしまえば、セロトニンやドーパミンだけではなく、GABAもきちんと作られなくなると考えられるのです。
したがって、若いうちから認知症を予防するためには、腸内細菌が喜ぶような、栄養バランスの良い食事を日々心がけることが重要であると思われます。