アルツハイマー型認知症の治療戦略「タウ仮説」と糖尿病の関係とは?
当ブログでは20代・30代・40代から認知症を予防するためにはどうすれば良いか、その方法について考えていますが、この記事ではアルツハイマー型認知症の治療戦略「タウ仮説」について書いていこうと思います。
前回の記事では「糖尿病がアルツハイマー型認知症の原因になる理由」について、『アルツハイマーは脳の糖尿病だった』(森下竜一・桐山秀樹 著)を取り上げながら述べました。
今回はアルツハイマー型認知症と糖尿病の関係についてより詳しく探ってみたいと思います。
一般的にアルツハイマー病の発症原因として有力なのは「βアミロイド」の蓄積だとされていますが、『アルツハイマーは脳の糖尿病だった』の中は、近年、もうひとつの有力な仮説として、「タウ仮説」と呼ばれるものがあるそうです。
アルツハイマー病発症の10~20年前から、脳の連合野にβアミロイドの凝集が始まり、老人斑というシミができ、やがて、MCIと呼ばれる軽度認知障害が起こると前に述べた。
しかし、そのMCIを発症する3~5年前に、同じ脳の連合野に、「リン酸化タウ」と呼ばれる物質が蓄積することが最近になって分かってきた。その結果、脳神経の原線維変化と呼ばれる繊維状の塊ができ、これが蓄積すると毒性を発し、凝集することによってやがて神経線維が死滅していく。
まだ明確なメカニズムは解明されてはいないが、βアミロイドの凝集による毒性と、このリン酸化タウ蓄積による毒性の両方が合わさって、アルツハイマー病が発症すると考えられている。(森下竜一・桐山秀樹『アルツハイマーは脳の糖尿病だった』p38)
ならば、βアミロイドによる老人斑が蓄積した後でも、そのタウのリン酸化を阻害し、凝集を抑制し、分解を促進する治療薬を作れば、MCIになるのを防ぎ、アルツハイマー病への進行を防ぐことができるのではないか、という治療戦略が考え出されてきた。
これが「タウ仮説」と呼ばれるものだ。
つまり、βアミロイドの蓄積から、5~10年後にタウの蓄積が始まる。そして、この後MCIと移行し、アルツハイマー病が発症する。ならば、このタウの蓄積を食い止めることによって、MCIの進行を防ぎ、2~3年後のアルツハイマー病の発症を、その一歩手前で食い止めようという治療戦略である。(森下竜一・桐山秀樹『アルツハイマーは脳の糖尿病だった』p38~39)
糖尿病からアルツハイマー病に至る発症プロセスとは
では糖尿病とアルツハイマー病は具体的にどのように関わってくるのでしょうか?
『アルツハイマーは脳の糖尿病だった』のなかでは糖尿病からアルツハイマー病の発症プロセスとして、以下が提示されています。
・不規則な生活習慣と食習慣、運動不足、短い睡眠時間、喫煙
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・インスリン抵抗性の増大
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・糖尿病
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・インスリン抵抗性のさらなる増大による脳内のβアミロイド・タンパクの蓄積
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・脳の表面の老人斑の出現
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・5~10年後に、脳の内部にリン酸化タウの蓄積
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・3~5年後に、軽度認知障害(MCI)の発症
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・数年後にアルツハイマー病を発症
(森下竜一・桐山秀樹『アルツハイマーは脳の糖尿病だった』p72~73)
糖尿病はアルツハイマー病へと進行するリスクが高い
さらに、『アルツハイマーは脳の糖尿病だった』のなかで、糖尿病患者はアルツハイマー病を発症するリスクが高い理由として、以下のように述べられています。
アルツハイマー病は、発症の10~20年ほど前に、脳の表面に老人斑と呼ばれるシミが付着し、これが放置されると脳の内部にタウ・タンパク質が凝集する。さらに、タウが脳の内部で神経原線維にからみついて毒性を出し、神経細胞を死滅させてしまう。この結果、アルツハイマー病を発症させることが分かっている。
だが、糖尿病患者においては、この老人斑が脳の表面にできる以前から、血管内のβアミロイドの増加で、アルツハイマー病へと進行する危険性が高いのだ。
そこで「糖尿病」「生活習慣病」を防ぐ観点からの新たなアルツハイマー病予防の対策が打ち立てられるようになってきた。(森下竜一・桐山秀樹『アルツハイマーは脳の糖尿病だった』p75)
このように述べられているとおり、20代・30代・40代の若いうちからアルツハイマー型認知症の発症を防いでいくためには、「糖尿病」「生活習慣病」を予防する観点が必要になってくると考えられます。
そして、アルツハイマー型認知症の予防と対策に必要になってくるのは、普段から白砂糖や人工甘味料などによって、血糖値を急上昇させたり、乱高下させたりしないようにするための「糖質制限」なのです。